前立腺癌

前立腺癌について

1.前立腺について
前立腺は男性のみにある臓器です。膀胱の下に位置し、尿道のまわりを取り囲んでいます。栗の実のような形をしています。

前立腺は精液の一部に含まれる前立腺液をつくっています。前立腺液には、PSAというタンパク質が含まれています。ほとんどのPSAは前立腺から精液中に分泌されますが、ごく一部は血液中に取り込まれます。

2.前立腺がんとは
前立腺がんは、前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖することにより発生します。早期に発見すれば治癒することが可能です。多くの場合比較的ゆっくり進行します。

進行するとリンパ節や骨に転移することが多いですが、肺、肝臓などに転移することもあります。

前立腺がんの中には、進行がゆっくりで、寿命に影響しないと考えられるがんもあります。

3.症状
早期の前立腺がんは、多くの場合自覚症状がありません。尿が出にくい、排尿の回数が多いなどの症状が出ることもあります。

進行すると、上記のような排尿の症状に加えて、血尿や、腰痛などの骨への転移による痛みがみられることがあります。

4.関連する疾患
前立腺肥大症
前立腺肥大症は、前立腺の細胞数が増加する良性の疾患で、高齢に伴い増える病気です。尿が出にくい、尿の切れが悪い、排尿後すっきりしない、夜間にトイレに立つ回数が多い、我慢ができずに尿を漏らしてしまうなどの前立腺がんと似ている排尿の症状があります。前立腺がんと同時に起こることもあります。

5.統計
前立腺がんと新たに診断される人数は1年間に10万人あたり117.9人です。年齢別にみた罹患率(りかんりつ)は、60歳ごろから高齢になるにつれて顕著に高くなります。男性では胃がん、大腸がん、肺がんに次いで4番目に罹患率が高いがんです。

6.発生要因
前立腺がんのリスクを高める要因として、前立腺がんの家族歴、高年齢が明らかにされています。その他の要因について研究が行われていますがまだ明らかではありません。

7.予防と検診
日本人を対象とした研究結果から定められた、科学的根拠に基づいた「日本人のためのがん予防法」では、禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、身体活動、適正な体形、感染予防ががんの予防に効果的といわれています。

しかし、前立腺がんについては、現在、指針として定められている検診はありません。気になる症状がある場合には、医療機関を早期に受診することが勧められます。人間ドックなど任意で検診を受ける場合には、検診のメリットとデメリットを理解した上で受けましょう。

なお、検診は、症状がない健康な人を対象に行われるものです。がんの診断や治療前後の検査は、ここでいう検診とは異なります。

8.前立腺がんの検査
主な検査はPSA検査、直腸診です。これらの検査で前立腺がんが疑われる場合には、経直腸エコー、前立腺生検などを行います。がんの広がりや転移の有無は画像検査で調べます。

1)PSA検査
PSA検査は前立腺がんを早期発見するための最も有用な検査です。がんや炎症により前立腺組織が壊れると、PSAが血液中に漏れ出し、増加します。血液検査でPSA値を調べることによって前立腺がんの可能性を調べます。

PSAの基準値は一般的には0~4ng/mLとされています。ただし、年齢によって基準値を下げる場合もあります。PSA値が4~10ng/mLでは、25~40%の割合でがんが発見されます。PSA値が10ng/mL以上の場合でも前立腺がんが発見されないこともあります。また、4ng/mL以下でも前立腺がんが発見されることもあります。100ng/mLを超える場合には前立腺がんが強く疑われ、転移も疑われます。

2)直腸診・経直腸的エコー
直腸診は、医師が肛門から指を挿入して前立腺の状態を確認する検査です。前立腺の表面に凹凸があったり、左右非対称であったりした場合には前立腺がんを疑います。経直腸エコーは、超音波を発する器具を肛門から挿入して、前立腺の大きさや形を調べる検査です。

3)前立腺生検
自覚症状、PSA値、直腸診、経直腸エコーなどから前立腺がんの疑いがある場合、最終的な診断のために前立腺生検を行います。前立腺生検では、超音波による画像で前立腺の状態をみながら、細い針で前立腺を刺して組織を採取します。初回の生検では10~12カ所の組織採取を行います。

前立腺生検でがんが発見されなかった場合にも、PSA検査を継続し、PSA値が上昇する場合には再生検が必要になることがあります。

前立腺生検の合併症には、出血、感染、排尿困難などがあります。

4)画像診断
CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィ検査などを必要に応じて行います。
CT検査ではリンパ節転移や他の臓器への転移の有無の確認をします。MRI検査ではがんが前立腺内のどこにあるのか、前立腺の外へ浸潤がないかなどを調べます。骨シンチグラフィ検査では、骨転移があるかどうかを調べます。

9.前立腺がんの治療
治療方法は、がんの進行の程度や体の状態などから検討します。
がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。

1)病期
①TNM分類
一般的に、病期分類にはTNM分類が用いられています。
病期は、身体所見、画像診断などから、TNM分類に基づいて診断します。

T:がんが前立腺の中にとどまっているか、周辺の組織・臓器にまで及んでいるか。
N:前立腺からのリンパ液が流れている近くのリンパ節(所属リンパ節)へ転移しているか。
M:離れた臓器への転移(遠隔転移)があるか。
T、N、Mはさらに数種類に分けられます。

②リスク分類
転移のない前立腺がんは、3つの因子(T-病期、グリーソンスコア、PSA値)を用いて低リスク群、中間リスク群、高リスク群に分けられます。

2)治療の選択
治療は、標準治療に基づいて、体の状態や年齢、患者さんの希望なども含め検討し、担当医とともに決めていきます。

前立腺がんの主な治療法は、監視療法、手術(外科治療)、放射線治療、内分泌療法(ホルモン療法)、化学療法です。複数の治療法が選択可能な場合があります。PSA値、腫瘍の悪性度(グリーソンスコア)、画像所見、リスク分類、年齢、期待余命、患者さんの治療に対する考え方などをもとに治療法を選択していきます。

監視療法、組織内照射療法は、低リスク群では選択が可能です。手術や放射線治療は低リスク・中間リスク・高リスク群のいずれでも選択可能です。高リスク群に対して放射線治療を実施する場合には長期間の内分泌療法を併用することが推奨されています。
近くの臓器に及んだがんは、放射線治療、内分泌療法などを行います。手術を行うこともあります。
転移があるがんは内分泌療法や化学療法などを行います。

①監視療法
監視療法とは、前立腺生検で見つかったがんがおとなしく、治療を開始しなくても余命に影響がないと判断される場合に経過観察を行いながら過剰な治療を防ぐ方法です。監視療法では、3~6カ月ごとの直腸診とPSA検査、および1~3年ごとの前立腺生検を行い、病状悪化の兆しがみられた時点で、治療の開始を検討します。

監視療法が適している状態とは、PSA値が10ng/mL以下、病期がT2以下、グリーソンスコアが6以下で、その他の指標も含めて総合的に判断されます。

②手術治療
手術では、前立腺と精のうを摘出し、その後、膀胱と尿道をつなぐ前立腺全摘除術を行います。手術の際に前立腺の周囲のリンパ節も取り除くこともあります(リンパ節郭清)。手術はがんが前立腺内にとどまっており、期待余命が10年以上と判断される場合に行うことが推奨されています。手術の方法には、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術があります。

・開腹手術(恥骨後式前立腺全摘除術)
開腹手術は、全身麻酔と硬膜外麻酔を行いながら、下腹部をまっすぐに切開して手術を行う方法です。

・腹腔鏡手術(腹腔鏡下前立腺全摘除術)
腹腔鏡手術は、小さな穴を数カ所開けて、炭酸ガスで腹部をふくらませて、専用のカメラや器具で手術を行う方法です。開腹手術に比べて出血量が少なく創(きず)が小さいため、体への負担が少なく、合併症からの回復が早いといわれています。当科では行っていません。

・ロボット手術(ロボット支援前立腺全摘除術)
ロボット手術は、下腹部に小さな穴を数カ所開けて、精密なカメラや鉗子(かんし)を持つ手術用ロボット(ダヴィンチ)を遠隔操作して行う方法です。微細な手の震えが制御され、拡大画面を見ながら精密な手術ができます。ロボット手術は、開腹手術と同等の制がん効果(がん細胞の増殖抑制効果)があり、開腹手術に比べ創が小さく、腹腔鏡手術と比較しても合併症からの回復が早いといわれています。

術後合併症には尿失禁、性機能障害などがあります。

・尿失禁
手術の際に、尿の排出を調節する筋肉が傷つくことで、尿道の締まりが悪くなり、せきをしたときなどに尿が漏れることがあります。尿失禁は、多くの場合半年ほどで生活に支障ない程度に回復します。しかし、完全に治すことは難しい場合もあります。

・性機能障害
手術直後は、ほぼ確実に勃起障害が起こります。勃起障害の回復は、神経温存の程度、年齢、術前の勃起能などで異なりますが、完全に戻ることは難しいのが一般的です。ただし、神経を温存した手術後の勃起障害には飲み薬での治療も有効といわれています。

③放射線治療
放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を照射してがん細胞を傷害し、がんを小さくする療法です。外照射療法と、組織内照射療法があります。

・外照射療法
外照射療法は、体の外から前立腺に放射線を照射する方法です。当院では周囲の臓器(直腸や膀胱)にあたる量を減らす三次元原体照射や、その進化形である強度変調放射線治療(IMRT)が可能です。一般的に、1日1回、週5回で7~8週間前後を要します。

このほかに、粒子線を用いた粒子線治療(陽子線、重粒子線)がありますが当院では施行していません。

外照射療法の主な副作用は、急性期のもの(3カ月以内に生じるもの)とそれ以降に生じる晩期のものに分けられます。急性期の副作用は、頻尿、排尿・排便時などです。晩期の副作用は排便時の出血や血尿などがあります。副作用の治癒には数年かかることがありますが、頻度は高くなく、重篤なものはまれです。

・組織内照射療法(密封小線源療法)
組織内照射療法は、小さな粒状の容器に放射線を出す物質を密封したもの(放射線源)を前立腺の中に入れて体内から照射する方法です。がん組織のすぐ近くに放射線源があるため位置がずれにくく、非常に高い線量を照射することができます。

ただし、前立腺肥大症で前立腺を削り取る手術を受けた方はこの治療を行うことはできません。また、前立腺が大きすぎる場合は、その一部が恥骨の後ろに隠れてしまうため、線源を埋め込むことができない場合があります。この場合は、治療前に内分泌療法を行い、前立腺を小さくすることがあります。

当院では永久的に埋め込む方法(密封小線源永久挿入療法[LDR:low dose rate])を行っています。

密封小線源永久挿入療法は麻酔をかけて、超音波で確認しながら、専用の機械で会陰(陰のうと肛門の間)から前立腺に線源を埋め込みます。治療は半日で終了しますが、手術後最低一晩は入院が必要です。埋め込まれた放射性物質は、半年程度で効力を失うため取り出す必要はありません。体の中に放射線が残っていますが、周囲の人にはほとんど影響はありません。

外照射療法では排便に関する副作用が多いのに対して、組織内照射療法の副作用は排尿に関するものが多い特徴があります。治療後3カ月くらいの間は徐々に排尿困難感や頻尿が進みます。それから1年程度をかけて、徐々に排尿の副作用は低減していきます。尿失禁が起こることはまれです。また、年齢にもよりますが、外照射療法に比べて性機能が維持される割合が高いことが特徴です。ただし、精液の量は減少します。

④薬物療法
・内分泌療法(ホルモン療法)
前立腺がんには、精巣や副腎から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)の刺激で病気が進行する性質があります。内分泌療法は、アンドロゲンの分泌や働きを妨げる薬によって前立腺がんの勢いを抑える治療です。内分泌療法は手術や放射線治療を行うことが難しい場合や、放射線治療の前あるいは後、がんがほかの臓器に転移した場合などに行われます。
内分泌療法の問題点は、長く治療を続けていると反応が弱くなり、落ち着いていた病状がぶり返す「再燃」が生じることです。内分泌療法は前立腺がんに対して有効な治療法ですが、この治療のみで完治することは困難であると考えられています。
再燃し、内分泌療法の効果が弱くなったと診断されたがんを去勢抵抗性前立腺がんといいます。去勢抵抗性前立腺がんの薬物治療として、種類の異なる内分泌療法や化学療法、副腎皮質ホルモン剤での治療を行うことがあります。
内分泌療法の副作用には、ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり、急な発汗)、性機能障害、乳房の症状、骨に対する影響、疲労などがあります。治療によってアンドロゲンが低下し、相対的に女性ホルモンが多い状態になるので、乳房が大きくなったり(女性化乳房)、乳頭に痛みを感じたりすることもあります。骨に対する影響として、骨密度が低下し、骨折のリスクが増加します。症状は一過性で、徐々に慣れてくることが多いのですが、副作用が強すぎるときには、薬の種類を変更したり、治療を中止したりすることがあります。
・化学療法
化学療法は薬を注射や点滴または内服することにより、がん細胞を消滅させたり小さくしたりすることを目的として行います。一般的には、転移があるがんで、内分泌療法の効果がなくなったがんに対して行います。

3)緩和ケア
緩和ケアとは、がんと診断されたときから、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を維持するために、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげ、自分らしく過ごせるようにする治療法です。緩和ケアは、がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われるものです。患者さんのニーズに応じて幅広い対応をします。患者さん本人にしかわからないつらさについても、積極的に医療者へ伝えるようにしましょう。