診療案内

腎細胞癌Renal cell carcinoma

腎がんに関して

1. 腎臓とは

腎臓は、尿を造る臓器です。身体のなかでいらなくなったもの、つまり老廃物を尿とともに体外へ排出します。その他に血圧の調節、体液量とイオンバランスの調節、強い骨をつくるなどの働きもあります。そら豆のような形をしており、重さ130g、長径11~2cmで、副腎と共に脂肪に包まれています。肋骨に上半分を守られるように、背中側に左右に1つずつあります。

2. 腎細胞がん(腎がん)とは

腎臓には尿細管という細い管があり、ここでは糸球体という細い血管でつくられた尿のもとから水分やさまざまな物質を吸収したり老廃物を排泄したりして尿をつくります。この尿細管の中に発生したがんを、一般に腎細胞がん(以下、腎がん)と呼びます。
肥満や高血圧といった生活習慣病や喫煙が腎がんのリスクとなると言われています。発生頻度は、人口10万人あたり2.5人程度です。年齢では40歳代から70歳代に多く発症しますが、近年では30歳以下の若年者の発症もしばしば見られます。男女比は2~3:1で男性に多い傾向があります。

[ 症状 ]

腫瘍が小さい場合、無症状であることがほとんどです。腫瘍が大きくなると、血尿、腹部のしこり、痛みが出現してきます。また全身症状として、体重減少、発熱、貧血をきたすことがあります。腎がんの4人に1人は肺やリンパ節や骨などに転移が発見されるといわれており、これらも進行すれば呼吸困難や痛みなどの症状が出現することがあります。

[ 診断 ]

近年では、健診での超音波検査やCTにより、偶然発見されるケースが増加しています。腎がんの検出に有用な、腫瘍マーカーは存在しないため、血液検査で発見することは困難です。腎には腎がん以外にも腫瘍性病変(良性腫瘍、腎盂腫瘍など)が発生することもあるため、より正確に診断するために造影剤を併用した腹部CT検査が有用です。また、病変の進展や転移を確認するために胸部CT 、MRI、骨シンチグラムを施行することもあります。

[ 治療:手術療法 ]

a)腎部分切除術

健診普及のため、サイズが小さいうちに発見されることも多くなりました。サイズが小さければがんのみを摘出する腎部分切除術を行います。腎機能温存もでき、サイズが小さいものに対して推奨されている手術です。当院ではロボット(da Vinci)手術で行いますが、腫瘍の位置などの問題で困難な際には開腹手術で行います。

b)腎摘除術

腎部分切除術が困難な際に施行します。基本腹腔鏡手術で行いますが、癒着が強い際、大血管浸潤で腹腔鏡手術が困難な際には開腹手術で行います。

[ 治療:薬物療法 ]

腎癌に対しては通常の抗がん剤は使用しません。

a)分子標的治療

がんの増殖や血管の増殖に関わる因子を抑えることで、抗腫瘍効果を発揮するものです。内服薬での治療が中心で、導入の際には入院していただくこともありますが、多くの方は外来通院で治療を行っています。

b)がん免疫療法

がんが免疫機構から逃れる機序に対し、それを阻害することで、リンパ球等ががんを攻撃するような治療となります。

患者さんによって、がんの悪性度や進行度が異なるため、これらの治療効果は一定していませんし、適している治療方法も異なる場合があります。また、治療経過によって、次々に治療薬を変更していくこともあるため、詳細な治療方針につきましては、個別に検討する必要があります。

[ フォローアップ ]

腎摘除術が行われた場合、20-30%で再発を経験します。転移部位は肺が最も多く、50-60%に見られます。フォローアップを行う主な目的は早期に再発・転移を発見することにあります。早期に再発・転移を発見することで再発巣や転移巣に対する切除術が可能となり、また切除術が困難な場合でも、薬物療法の効果を上げる可能性があります。フォローアップの中心は画像検査になります。晩期再発も多数報告されており、フォローアップは生涯行われることが望ましいとの考えもあります。

前立腺癌Prostate cancer

前立腺癌について

1. 前立腺について

前立腺は男性のみにある臓器です。膀胱の下に位置し、尿道のまわりを取り囲んでいます。栗の実のような形をしています。
前立腺は精液の一部に含まれる前立腺液をつくっています。前立腺液には、PSAというタンパク質が含まれています。ほとんどのPSAは前立腺から精液中に分泌されますが、ごく一部は血液中に取り込まれます。

2. 前立腺がんとは

前立腺がんは、前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖することにより発生します。早期に発見すれば治癒することが可能です。多くの場合比較的ゆっくり進行します。
進行するとリンパ節や骨に転移することが多いですが、肺、肝臓などに転移することもあります。
前立腺がんの中には、進行がゆっくりで、寿命に影響しないと考えられるがんもあります。

3. 症状

早期の前立腺がんは、多くの場合自覚症状がありません。尿が出にくい、排尿の回数が多いなどの症状が出ることもあります。
進行すると、上記のような排尿の症状に加えて、血尿や、腰痛などの骨への転移による痛みがみられることがあります。

4. 関連する疾患

前立腺肥大症

前立腺肥大症は、前立腺の細胞数が増加する良性の疾患で、高齢に伴い増える病気です。尿が出にくい、尿の切れが悪い、排尿後すっきりしない、夜間にトイレに立つ回数が多い、我慢ができずに尿を漏らしてしまうなどの前立腺がんと似ている排尿の症状があります。前立腺がんと同時に起こることもあります。

5. 統計

前立腺がんと新たに診断される人数は1年間に10万人あたり117.9人です。年齢別にみた罹患率(りかんりつ)は、60歳ごろから高齢になるにつれて顕著に高くなります。男性では胃がん、大腸がん、肺がんに次いで4番目に罹患率が高いがんです。

6. 発生要因

前立腺がんのリスクを高める要因として、前立腺がんの家族歴、高年齢が明らかにされています。その他の要因について研究が行われていますがまだ明らかではありません。

7. 予防と検診

日本人を対象とした研究結果から定められた、科学的根拠に基づいた「日本人のためのがん予防法」では、禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、身体活動、適正な体形、感染予防ががんの予防に効果的といわれています。
しかし、前立腺がんについては、現在、指針として定められている検診はありません。気になる症状がある場合には、医療機関を早期に受診することが勧められます。人間ドックなど任意で検診を受ける場合には、検診のメリットとデメリットを理解した上で受けましょう。
なお、検診は、症状がない健康な人を対象に行われるものです。がんの診断や治療前後の検査は、ここでいう検診とは異なります。

8. 前立腺がんの検査

主な検査はPSA検査、直腸診です。これらの検査で前立腺がんが疑われる場合には、経直腸エコー、前立腺生検などを行います。がんの広がりや転移の有無は画像検査で調べます。

1)PSA検査

PSA検査は前立腺がんを早期発見するための最も有用な検査です。がんや炎症により前立腺組織が壊れると、PSAが血液中に漏れ出し、増加します。血液検査でPSA値を調べることによって前立腺がんの可能性を調べます。
PSAの基準値は一般的には0~4ng/mLとされています。ただし、年齢によって基準値を下げる場合もあります。PSA値が4~10ng/mLでは、25~40%の割合でがんが発見されます。PSA値が10ng/mL以上の場合でも前立腺がんが発見されないこともあります。また、4ng/mL以下でも前立腺がんが発見されることもあります。100ng/mLを超える場合には前立腺がんが強く疑われ、転移も疑われます。

2)直腸診・経直腸的エコー

直腸診は、医師が肛門から指を挿入して前立腺の状態を確認する検査です。前立腺の表面に凹凸があったり、左右非対称であったりした場合には前立腺がんを疑います。経直腸エコーは、超音波を発する器具を肛門から挿入して、前立腺の大きさや形を調べる検査です。

3)前立腺生検

自覚症状、PSA値、直腸診、経直腸エコーなどから前立腺がんの疑いがある場合、最終的な診断のために前立腺生検を行います。前立腺生検では、超音波による画像で前立腺の状態をみながら、細い針で前立腺を刺して組織を採取します。初回の生検では10~12カ所の組織採取を行います。
前立腺生検でがんが発見されなかった場合にも、PSA検査を継続し、PSA値が上昇する場合には再生検が必要になることがあります。
前立腺生検の合併症には、出血、感染、排尿困難などがあります。

4)画像診断

CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィ検査などを必要に応じて行います。
CT検査ではリンパ節転移や他の臓器への転移の有無の確認をします。MRI検査ではがんが前立腺内のどこにあるのか、前立腺の外へ浸潤がないかなどを調べます。骨シンチグラフィ検査では、骨転移があるかどうかを調べます。

9. 前立腺がんの治療

治療方法は、がんの進行の程度や体の状態などから検討します。
がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。

1)病期

①TNM分類

一般的に、病期分類にはTNM分類が用いられています。
病期は、身体所見、画像診断などから、TNM分類に基づいて診断します。

T:がんが前立腺の中にとどまっているか、周辺の組織・臓器にまで及んでいるか。
N:前立腺からのリンパ液が流れている近くのリンパ節(所属リンパ節)へ転移しているか。
M:離れた臓器への転移(遠隔転移)があるか。
T、N、Mはさらに数種類に分けられます。

②リスク分類

転移のない前立腺がんは、3つの因子(T-病期、グリーソンスコア、PSA値)を用いて低リスク群、中間リスク群、高リスク群に分けられます。

2)治療の選択

治療は、標準治療に基づいて、体の状態や年齢、患者さんの希望なども含め検討し、担当医とともに決めていきます。
前立腺がんの主な治療法は、監視療法、手術(外科治療)、放射線治療、内分泌療法(ホルモン療法)、化学療法です。複数の治療法が選択可能な場合があります。PSA値、腫瘍の悪性度(グリーソンスコア)、画像所見、リスク分類、年齢、期待余命、患者さんの治療に対する考え方などをもとに治療法を選択していきます。

監視療法、組織内照射療法は、低リスク群では選択が可能です。手術や放射線治療は低リスク・中間リスク・高リスク群のいずれでも選択可能です。高リスク群に対して放射線治療を実施する場合には長期間の内分泌療法を併用することが推奨されています。
近くの臓器に及んだがんは、放射線治療、内分泌療法などを行います。手術を行うこともあります。
転移があるがんは内分泌療法や化学療法などを行います。

①監視療法

監視療法とは、前立腺生検で見つかったがんがおとなしく、治療を開始しなくても余命に影響がないと判断される場合に経過観察を行いながら過剰な治療を防ぐ方法です。監視療法では、3~6カ月ごとの直腸診とPSA検査、および1~3年ごとの前立腺生検を行い、病状悪化の兆しがみられた時点で、治療の開始を検討します。
監視療法が適している状態とは、PSA値が10ng/mL以下、病期がT2以下、グリーソンスコアが6以下で、その他の指標も含めて総合的に判断されます。

②手術治療

手術では、前立腺と精のうを摘出し、その後、膀胱と尿道をつなぐ前立腺全摘除術を行います。手術の際に前立腺の周囲のリンパ節も取り除くこともあります(リンパ節郭清)。手術はがんが前立腺内にとどまっており、期待余命が10年以上と判断される場合に行うことが推奨されています。手術の方法には、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術があります。

開腹手術(恥骨後式前立腺全摘除術)

開腹手術は、全身麻酔と硬膜外麻酔を行いながら、下腹部をまっすぐに切開して手術を行う方法です。

腹腔鏡手術(腹腔鏡下前立腺全摘除術)

腹腔鏡手術は、小さな穴を数カ所開けて、炭酸ガスで腹部をふくらませて、専用のカメラや器具で手術を行う方法です。開腹手術に比べて出血量が少なく創(きず)が小さいため、体への負担が少なく、合併症からの回復が早いといわれています。当科では行っていません。

ロボット手術(ロボット支援前立腺全摘除術)

ロボット手術は、下腹部に小さな穴を数カ所開けて、精密なカメラや鉗子(かんし)を持つ手術用ロボット(ダヴィンチ)を遠隔操作して行う方法です。微細な手の震えが制御され、拡大画面を見ながら精密な手術ができます。ロボット手術は、開腹手術と同等の制がん効果(がん細胞の増殖抑制効果)があり、開腹手術に比べ創が小さく、腹腔鏡手術と比較しても合併症からの回復が早いといわれています。
術後合併症には尿失禁、性機能障害などがあります。

尿失禁

手術の際に、尿の排出を調節する筋肉が傷つくことで、尿道の締まりが悪くなり、せきをしたときなどに尿が漏れることがあります。尿失禁は、多くの場合半年ほどで生活に支障ない程度に回復します。しかし、完全に治すことは難しい場合もあります。

性機能障害

手術直後は、ほぼ確実に勃起障害が起こります。勃起障害の回復は、神経温存の程度、年齢、術前の勃起能などで異なりますが、完全に戻ることは難しいのが一般的です。ただし、神経を温存した手術後の勃起障害には飲み薬での治療も有効といわれています。

③放射線治療

放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を照射してがん細胞を傷害し、がんを小さくする療法です。外照射療法と、組織内照射療法があります。

外照射療法

外照射療法は、体の外から前立腺に放射線を照射する方法です。当院では周囲の臓器(直腸や膀胱)にあたる量を減らす三次元原体照射や、その進化形である強度変調放射線治療(IMRT)が可能です。一般的に、1日1回、週5回で7~8週間前後を要します。
このほかに、粒子線を用いた粒子線治療(陽子線、重粒子線)がありますが当院では施行していません。
外照射療法の主な副作用は、急性期のもの(3カ月以内に生じるもの)とそれ以降に生じる晩期のものに分けられます。急性期の副作用は、頻尿、排尿・排便時などです。晩期の副作用は排便時の出血や血尿などがあります。副作用の治癒には数年かかることがありますが、頻度は高くなく、重篤なものはまれです。

組織内照射療法(密封小線源療法)

組織内照射療法は、小さな粒状の容器に放射線を出す物質を密封したもの(放射線源)を前立腺の中に入れて体内から照射する方法です。がん組織のすぐ近くに放射線源があるため位置がずれにくく、非常に高い線量を照射することができます。
ただし、前立腺肥大症で前立腺を削り取る手術を受けた方はこの治療を行うことはできません。また、前立腺が大きすぎる場合は、その一部が恥骨の後ろに隠れてしまうため、線源を埋め込むことができない場合があります。この場合は、治療前に内分泌療法を行い、前立腺を小さくすることがあります。
当院では永久的に埋め込む方法(密封小線源永久挿入療法[LDR:low dose rate])を行っています。
密封小線源永久挿入療法は麻酔をかけて、超音波で確認しながら、専用の機械で会陰(陰のうと肛門の間)から前立腺に線源を埋め込みます。治療は半日で終了しますが、手術後最低一晩は入院が必要です。埋め込まれた放射性物質は、半年程度で効力を失うため取り出す必要はありません。体の中に放射線が残っていますが、周囲の人にはほとんど影響はありません。
外照射療法では排便に関する副作用が多いのに対して、組織内照射療法の副作用は排尿に関するものが多い特徴があります。治療後3カ月くらいの間は徐々に排尿困難感や頻尿が進みます。それから1年程度をかけて、徐々に排尿の副作用は低減していきます。尿失禁が起こることはまれです。また、年齢にもよりますが、外照射療法に比べて性機能が維持される割合が高いことが特徴です。ただし、精液の量は減少します。

④薬物療法

内分泌療法(ホルモン療法)

前立腺がんには、精巣や副腎から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)の刺激で病気が進行する性質があります。内分泌療法は、アンドロゲンの分泌や働きを妨げる薬によって前立腺がんの勢いを抑える治療です。内分泌療法は手術や放射線治療を行うことが難しい場合や、放射線治療の前あるいは後、がんがほかの臓器に転移した場合などに行われます。
内分泌療法の問題点は、長く治療を続けていると反応が弱くなり、落ち着いていた病状がぶり返す「再燃」が生じることです。内分泌療法は前立腺がんに対して有効な治療法ですが、この治療のみで完治することは困難であると考えられています。
再燃し、内分泌療法の効果が弱くなったと診断されたがんを去勢抵抗性前立腺がんといいます。去勢抵抗性前立腺がんの薬物治療として、種類の異なる内分泌療法や化学療法、副腎皮質ホルモン剤での治療を行うことがあります。
内分泌療法の副作用には、ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり、急な発汗)、性機能障害、乳房の症状、骨に対する影響、疲労などがあります。治療によってアンドロゲンが低下し、相対的に女性ホルモンが多い状態になるので、乳房が大きくなったり(女性化乳房)、乳頭に痛みを感じたりすることもあります。骨に対する影響として、骨密度が低下し、骨折のリスクが増加します。症状は一過性で、徐々に慣れてくることが多いのですが、副作用が強すぎるときには、薬の種類を変更したり、治療を中止したりすることがあります。

化学療法

化学療法は薬を注射や点滴または内服することにより、がん細胞を消滅させたり小さくしたりすることを目的として行います。一般的には、転移があるがんで、内分泌療法の効果がなくなったがんに対して行います。

3)緩和ケア

緩和ケアとは、がんと診断されたときから、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を維持するために、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげ、自分らしく過ごせるようにする治療法です。緩和ケアは、がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われるものです。患者さんのニーズに応じて幅広い対応をします。患者さん本人にしかわからないつらさについても、積極的に医療者へ伝えるようにしましょう。

癌尿路上皮癌Prostate cancer

膀胱がん、尿管がん、腎盂がん(尿路上皮がん)

尿は腎臓でつくられ、腎盂(じんう)内に流れ出し、尿管(にょうかん)を流れて膀胱(ぼうこう)にたまります。膀胱にたまった尿は尿道を通って体外に排泄されます。この尿の通り道(腎盂、尿管、膀胱)は全て移行上皮という種類の粘膜でおおわれており、この粘膜のことを一般的に尿路上皮と呼びます。尿路上皮にがんが発生することがあり、膀胱にできたものを膀胱がん、尿管にできたものを尿管がん、腎盂にできたものを腎盂がんと呼びます。ほとんど(90%以上)は尿路上皮がんという種類ですが、まれに扁平上皮がんや腺がんなどの場合もあります。

[ 症状 ]

初期の段階では無症状のことも多いですが、下記のような症状を伴う場合もあります。
血尿、頻尿、排尿時痛、排尿困難

尿路上皮がんの特徴の一つとして、痛みなどを伴わない血尿(無症候性血尿)がみられることがあります。この血尿はすぐに消失してしまうことも多く、そのせいで治ったと勘違いして受診の機会を逃し、尿路上皮がんが進行した状態で後日発見されるといった症例をしばしば経験します。したがって、一度でも血尿がでたら、たとえすぐに血尿が治ったとしても、なるべく早期に泌尿器科を受診することがとても重要です。

[ 検査 ]

上記の症状から、尿路上皮がんが疑われた場合、場合にもよりますが、下記のような検査を行います。

  • 尿検査:血尿の有無、尿路感染症の有無、がん細胞の有無などを確認します。
  • エコー検査:尿路に腫瘍などがないかを確認します。
  • 血液検査:からだにその他の異常がないかなどを調べます。
  • 膀胱鏡:膀胱の中をカメラで観察します。当院はやわらかくて細いカメラを導入しています。検査時間は状態にもよりますが、おおよそ5分前後です。
  • CT:腎盂、尿管に腫瘍がないかどうかを確認します。さらにほかの臓器に転移などがないかどうかの確認も同時に行います。
  • MRI:がんの深達度(どこまで深く進んでいるか)を確認します。
  • 骨シンチグラフィー:骨に転移がないかどうかを確認します。
  • 逆行性腎盂造影:腎盂がん、尿管がんが強く疑われる場合、カメラを使って尿管内に細いカテーテルを挿入し、尿の採取、造影を行って、腎盂・尿管の詳細な形態を調べることがあります。
  • 尿管鏡検査:腎盂がん、尿管がんが強く疑われるものの、逆行性腎盂造影でもはっきり診断がつけられない場合、尿管鏡というカメラを尿管内に挿入して、実際に尿管内に腫瘍があるのかどうかを観察する場合があります。

[ 治療 ]

①膀胱がん

膀胱がんの場合、がん細胞が筋層に達しているかどうかで方針が変わってきます。

まず初めに、内視鏡を用いて腫瘍の切除を行い(経尿道的膀胱腫瘍切除術:TURBT)、切除した腫瘍を顕微鏡で詳細に調べます。診断がつかない場合、切除が不十分であることが判明した場合、再発リスクが高いと判断された場合、後日再度TURBTを行うこともあります(second look TURBT)。

1. 腫瘍が筋層に達していない場合

抗がん剤の膀胱内注入を外来通院で継続します。抗がん剤は膀胱内に注入するだけなので、重篤な副作用が出現することは極めてまれです。
がん細胞の性質によっては、抗がん剤ではなく、BCG(ウシの結核菌)を膀胱内に注入する治療を外来通院で継続します。
上皮内がんの場合は、BCG膀胱内注入療法をまず行うことが一般的です。

2. 腫瘍が筋層に達していた場合

基本的に膀胱全摘除術+尿路変更術を行います。当院では従来の開腹手術に比べて身体への負担が少ないダビンチを用いたロボット支援手術を導入しています。また、術後の再発率低下を目的に、手術前に抗がん剤による治療を数回行います。
尿路変更には①腹部にストマ(尿の出口)を作成し、袋に尿がたまるようにする方法、②腸を用いて代用膀胱を作成し、尿道から排尿できるようにする方法があります。状態に応じて、最善となる方法を提案していきます。

3. CTで遠隔転移などがある場合

抗がん剤での治療が基本となります。はじめは入院で行うことが多いですが、なれてきたら外来通院で継続していきます。抗がん剤の効果が不十分な場合、最近は免疫チェックポイント阻害薬(ペンブロリツマブ)を使用した治療ができるようになりました。当院でも適応となる症例には積極的に導入しています。

②腎盂・尿管がん

こちらも膀胱がんとほぼ同様の検査を行います。転移がある場合とない場合で治療方針が異なってきます。

1. 転移がない場合

全身状態に問題がなければ、腫瘍がある側の腎尿管全摘除術が標準治療になります。当院では、基本的に腹腔鏡で手術を行っています。

2. 転移がある場合

抗がん剤または免疫チェックポイント阻害薬による治療を行います。内容は膀胱がんのものと同様です。

[ 原因 ]

喫煙は膀胱がんの主な危険因子です。男性の50%以上、女性の30%の膀胱がんは喫煙が原因といわれています。
また、ナフチルアミン、ベンジジン、アミノビフェニル、オルトトルイジンなどの化学物質にさらされることも危険因子とされています。
日本ではあまり関係ありませんが、エジプトのナイル川流域では、ナイル川に生息するビルハルツ住血吸虫が膀胱がんを発生させている可能性が高いといわれています。
その他にも、フェナセチン含有鎮痛剤、シクロフォスファミド、骨盤内臓器に対する放射線治療の時の膀胱への被ばくなどが考えられます。

[ 尿路変更について ]

膀胱全摘除術をうける方には、ほぼ例外なく尿路変更を行います。
《尿路変更の種類》

ストマ作成(回腸導管、尿管皮膚瘻、腎瘻など)
代用膀胱作成

①ストマ

回腸導管

尿路変更では最も一般的な方法の一つです。回腸を一部切り出して、その端に尿管をつなぎ、もう片方をおなかの外に出して、そこから尿が流れ出るようにします。流出口には専用の袋を装着し、尿をためておけるようにします。ためた尿は定期的にトイレなどに廃棄する必要があります。

尿管皮膚瘻

腸を使用せず、尿管の切れ端を直接おなかの外に出して、そこから尿が流れ出るようにします。回腸導管と同じように、専用の袋を装着し、尿をためておけるようにします。ためた尿は定期的にトイレなどに廃棄する必要があります。
袋は通常2〜3日ごとに交換が必要です。また、尿管のつないだ箇所が狭窄することがあり、尿管ステントという細い管を入れざるを得ない場合があります。その場合はそちらの定期交換も必要です。
入浴は、袋にたまった尿をすててから入ります。袋は耐水性がありますので、濡れても問題ありません。

腎瘻

腎盂に背中から直接カテーテルを挿入し、そこから尿が出るようにする方法です。尿管の広範囲が腫瘍で占拠されているなどの理由で、回腸導管や尿管皮膚瘻を作成できるだけの正常な尿管が十分に残せない場合に選択される場合があります。

②代用膀胱

代用膀胱は、回腸導管と同じように腸管を切り出し、それを用いて新しく袋を作成し、そこに尿管と尿道をつないで、手術前と同じように尿道から排尿できるようにします。外見上、手術前と変わらないことがメリットです。

適応

尿道もしくは尿道の近く(膀胱頸部;膀胱の入り口付近)にがん細胞がないことを確認できている方は、患者様と十分に相談したうえで代用膀胱を作成します。

注意点

代用膀胱は腸で作ってあるため、尿がたまっても尿意を感じることはありません。また、自ら収縮して排尿する力もありません。そのため、定期的に腹圧で尿を排泄してあげる必要があります。それでも十分に排尿できない場合、カテーテルを使って定期的に尿を排泄する必要があります。

精巣癌Testicular cancer

精巣癌について

1. 精巣腫瘍とは

精巣(せいそう)は、男性の股間の陰のう内部にある卵形をした臓器で、精巣腫瘍とは男性の精巣(睾丸)にできる腫瘍です。精巣腫瘍にかかる割合は10万人に1人程度とされ、比較的まれな腫瘍です。しかし、他の多くのがんと異なり、20歳代後半から30歳代にかけて発症のピークがあり、若年者に多い腫瘍であることが大きな特徴です。実際に20歳代から30歳代の男性では、最もかかる数が多い固形腫瘍(白血病などの血液腫瘍以外の腫瘍)とされています。詳しい原因は分かっていませんが、停留精巣(精巣が陰嚢内に入ってなくソケイ部などに留まっている病態)があると発生率が高くなることや、症例の3分に1程度に遺伝的因子が関与していると考えられています。

2. 精巣腫瘍の種類

1)セミノーマ

精巣腫瘍の50%以上を占める組織型です。放射線治療もに対する感受性が高い腫瘍です。

2)非セミノーマ

胎児性がん、卵黄嚢腫瘍、絨毛がん、奇形種やそれぞれが混在したものなどで、セミノーマより転移を起こしやすく悪性の経過をたどることが多いです。

[ 症状 ]

精巣腫瘍の主な症状は、片側の精巣の腫れや硬さの変化です。多くの場合痛みや発熱がないため進行しないと気付かないことも少なくありません。また、精巣腫瘍は比較的短期間で転移(腫瘍(がん)が離れた臓器に移動して、そこでふえること)を起こすため、転移によって起こる症状があります。転移した部位により症状は異なり、例えば、腹部リンパ節への転移の場合では腹部のしこり・腹痛・腰痛などが、肺への転移の場合では息切れ・咳(せき)・血痰(けったん)などがあげられます。その他、肝臓、骨、脳などに転移することがあります。

[ 検査・診断 ]

1)触診

最初に陰のう内のしこりについて確認します。腫瘍が小さく精巣の一部を占めるだけのときには、腫瘍はやわらかい精巣の中に硬いしこりとして感じられます。腫瘍が精巣内をほとんど占めるように広がると、精巣全体が硬いしこりとして感じられます。この時期では、左右の精巣の大きさ、硬さの違いなどから自分で異常を発見することも可能です。また、水がたまった状態をしこりとして感じることもあり、これを水腫(すいしゅ)といいます。しこりが腫瘍か水腫かを判断するために、超音波検査も行います。

2)腫瘍マーカー

腫瘍マーカーとは、腫瘍細胞がつくり出す物質で、腫瘍の種類や性質を知るための目安となるものです。精巣腫瘍の診断では、腫瘍マーカーが重要な役割を果たします。代表的な精巣腫瘍の腫瘍マーカーには、AFP(αフェトプロテイン)、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)およびhCG-β、LDH(乳酸脱水素酵素)などがあります。これらの腫瘍マーカーは、治療効果の判定や治療後の経過観察にも用いられます。ただし、すべての種類の腫瘍が腫瘍マーカーをつくり出すわけではなく、他の病気によってこれらの腫瘍マーカーの数値が上昇することもあります。

3)画像診断

超音波検査で嚢内精巣部分のしこりを確認します。多くの場合、超音波検査によって腫瘍を確認することが可能です。そして、血液の流れがわかるカラードップラー超音波検査では、腫瘍の血流についても調べることができます。
胸部レントゲンやCT検査は腫瘍の状態や周辺の臓器への広がり、肺やリンパ節などへの転移の診断に有用です。必要に応じてMRIや骨への腫瘍の広がりを調べる骨シンチグラフィーなどの検査も行われます。

[ 病期分類 ]

日本泌尿器科学会病期分類(Ⅰ期:転移なし、Ⅱ期:腹部のリンパ節に転移を認める、Ⅲ期:遠隔転移を認める)、TNM分類(0~Ⅲ期)、IGCCC分類(Good prognosis、Intermediate prognosis、Poor prognosis)などを用いて病期(病状がどの程度進んでいるか)を判断し、治療方針を決定します。

[ 治療 ]

高位精巣摘除術(手術)

精巣腫瘍は進行が速く、転移しやすいという特徴があります。そのため、精巣腫瘍が疑われる場合には、まず病気のある側の精巣を摘出する手術を行います。そして、手術で取り出した組織を顕微鏡で調べると同時にCTなどの画像診断によって、腫瘍の種類と病期を確定します。腫瘍がセミノーマであるか非セミノーマであるかによって、その後の治療方針と予後(病気や治療などの経過についての見通し)が異なります。

後腹膜リンパ節郭清術(手術)

後腹膜リンパ節とはおなかの大血管周囲にあるリンパ節です。精巣腫瘍ははじめにこのリンパ節に転移を起こすことが多いため、転移のないI期の場合でも、再発を防ぐ目的でこの部分のリンパ節とその周りの組織を取り去る手術が行われることがあります。この手術を後腹膜リンパ節郭清術といいます。また、最初から後腹膜リンパ節に転移がある場合は、化学療法によってがん細胞を十分に死滅させてからこの手術を実施します。

化学療法

明らかな転移のないI期でも、再発の可能性が高い場合や、転移のあるII期以上の多くは、化学療法が行われます。 化学療法では、多くの場合複数の作用の異なる抗がん剤を組み合わせて治療を行います。精巣腫瘍に対する化学療法は、根治を目指して実施する治療であり、比較的大量の抗がん剤を使用します。従って治療中の副作用は、他のがんにおける治療と比べて強い部類に入ります。

放射線療法

セミノーマでは放射線治療が特に有効とされ、I期のセミノーマの再発予防のためとII期のセミノーマの比較的小さなリンパ節転移に対して放射線治療が行われることがあります。一方、非セミノーマでは放射線治療の効果があまり期待できないため、初期治療として選択されることはありません。また、精巣腫瘍は転移しやすいがんであるため、照射した範囲以外には効果があらわれない放射線治療は、転移巣が大きく広がっている場合、通常は行われません。

精子保存

手術、化学療法、放射線治療などにより造精機能が低下し不妊になる可能性があるため、治療前に精子を凍結保存することが可能です。

治療効果

Ⅰ期(転移がない)では、組織型に関係なくほぼ100%の生存率です。
Ⅱ期、Ⅲ期(転移がある)の5年生存率は病状により70~90%程度とされています。

下部尿路機能障害Lower urinary tract dysfunction

下部尿路症状について

このような症状はありませんか?

  • トイレが近い
  • 夜何度もトイレで起きる
  • トイレに行った後もすぐにまた行きたくなる
  • おしっこが漏れる
  • おしっこが出にくい
  • おしっこをした後でも残っている感じがある
  • おしっこをするときに痛みがある
  • ぼうこうのあたりが痛い、違和感がある

60歳以上の男女の約78%がなんらかの症状を有すると言われています。(参考文献1)

代表的なご病気としては

  • 前立腺肥大症
  • 過活動膀胱
  • 神経因性膀胱
  • 腹圧性尿失禁
  • 骨盤臓器脱
  • 膀胱炎
  • 間質性膀胱炎
  • 慢性骨盤痛症候群
  • 低活動膀胱

などが考えられます。このうち、代表的な2つの疾患についてご説明します。

[ 前立腺肥大症 ]

前立腺は膀胱の下にあり、尿道を取り囲んでいます。
みかんのような層構造をしていて、尿道のまわりの内腺(みかんの実にあたる部分)と被膜付近の外腺(みかんの皮にあたる部分)に分けられます。 尿の通り道を圧排することで様々な症状を引き起こすことを前立腺肥大症と言います。
55歳 以上の男性の5人に1人、すなわち約400万人が前立腺肥大症に罹患していると推測している報告もあります。(参考文献2)

おもな治療法としては

  • 薬物療法(α1阻害薬、PDE5阻害薬、5α還元酵素阻害薬、漢方など)
  • 生活指導(食事指導、ダイエット、運動、禁煙など)
  • 認知行動療法
  • 骨盤底筋訓練
  • 手術(HoLEP、TURPなど)

などがあります。まずは生活指導、骨盤底筋のトレーニングや、薬物療法などを行い、あまり有効でない場合や、あるいは最初から症状がかなりひどい場合、検査で異常が明らかな場合は手術を行います。

当科で行う手術としては、ホルミウムレーザーを用いて前立腺を核出する手術(HoLEP)を中心に、患者さまの状態に応じて適した方法を選択します。おもな治療成績はこちらから参照してください。

[過活動膀胱 ]

「急に我慢できないような尿意が起こる」尿意切迫感を主症状とし、通常は「トイレが近い」頻尿や夜間頻尿を、時に「急にトイレに行きたくなり、我慢ができず尿が漏れてしまうことがある」切迫性尿失禁を伴う症状症候群のことです。40歳以上人口の12.4%を占めると言われています。

おもな治療法としては

  • 薬物療法(抗コリン薬、β3アドレナリン受容体作動薬、その他漢方薬、エストロゲン、フラボキサート、三環系抗うつ薬など)
  • 生活指導(食事指導、ダイエット、運動、禁煙など)
  • 理学療法
  • 膀胱訓練
  • 神経変調療法・外科手術

などがあります。診察や各種検査を行ったうえで、その結果や、症状の程度、ああるいは患者さまの状態に応じて各種治療法を選択します。

この他にも、当科が専門としている疾患は多くあります。上記のような症状がありましたら、いつでも気軽にご相談ください。

参考文献

1.本間之夫:排尿に関する疫学的研究委員会、排尿に関する疫学的研究.排日排尿機能会誌2003;14: 277 – 266

2. 厚生労働省: 平成25年国民生活基礎調査の概況. 2014.

尿路結石Urinary stone

尿路結石症とは

1. 尿路結石症とは

尿路(腎臓(腎盂)~尿管~膀胱~尿道)に結石が存在する病気です。
尿は血液中の老廃物等を濾過・濃縮し排泄されるものです。結石は尿中の成分が何らかの原因で腎臓において結晶となり、これを核として大きくなったものです。この結石が尿とともに腎臓(腎盂)~尿管~膀胱~尿道と流れ外尿道口から排出されますが、その途中何らかの原因で流されない状態となり、ひとところに留まる状態となることがあります。留まった場所によって上流から、腎結石・尿管結石・膀胱結石・尿道結石と呼び方が変わります。そのうち腎結石・尿管結石を上部尿路結石、膀胱結石・尿道結石を下部尿路結石と分類し、上部尿路結石が尿路結石症全体の95%以上を占めています。
尿路結石は、日本人が生まれてから死ぬまでに1回でもなる確率(生涯有病率)が10%といわれ、食の欧米化によって生涯有病率は上昇する可能性が高いと言われています。男性が女性に比べて2倍程度かかりやすいとされています。
一言に結石と言っても、その成分はシュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム、尿酸、リン酸マグネシウムアンモニウム、シスチンなど様々です。全尿路結石の80%程度がュウ酸カルシウム、リン酸カルシウムです。しかしながらこの2つの結石については、結石ができる原因があまり良く知られていません。尿酸結石は痛風が、シスチン結石はシスチン尿症という遺伝性疾患が背景となっており、治療が必要となります。

表:結石の原因となりうるおもな疾患・内服など
寝たきり シュウ酸カルシウム・リン酸カルシウム
尿路感染症 リン酸マグネシウムアンモニウム
副甲状腺機能亢進症 リン酸カルシウム
腎尿細管性アシドーシス
緑内障治療薬(アセタゾラミド)
痛風 尿酸結石
尿酸排泄薬(プロベネシド)
シスチン尿症 シスチン結石

2. 症状について

ここでは、結石の出来た場所によって起こりうる症状について見ていきます。

1)腎結石

腎結石はその殆どが無症状で、検診の超音波検査やレントゲン、CTで発見されます。多くは無症状のまま腎盂内に留まっていますが、大きくなると腎盂を鋳型にしたような結石(珊瑚状結石)となることもあります。

2)尿管結石

尿管結石の主な症状として

  • 結石が粘膜を傷つけることによる出血(血尿)
  • 急激な腰背部痛・腹痛(疝痛発作)
  • 吐き気・冷や汗

が挙げられ、特に疝痛発作は人間の最も強い痛みの一つと言われるほどの激烈な痛みです。ただしこれが必ず起こるわけではなく、腰に違和感がある程度とおっしゃる方も中にはおられます。
尿流が妨げられる事によって、腎盂内に尿が滞りそこに細菌感染をきたして急性腎盂腎炎を招くこともあります。発熱をきたし、悪くすると命の危険もあるため十分な加療が必要となります。また長期に尿管内に留まった状態にしておくと、尿流が妨げられた状態が続くこととなり腎機能の低下を招きます。

3)膀胱結石

膀胱結石は、結石が粘膜を傷つけることによる出血(血尿)や尿の混濁(膿尿)の原因となることがあります。ただ多くは無症状であることが多いです。尿が勢いよく出せないために落ちてきた結石が膀胱内で大きくなることが殆どで、この原因となっている尿の出にくさについても検査する必要があることがあります。

4)尿道結石

尿道結石は、膀胱から落下した結石が尿道に留まった状態です。この際尿の出が急激に悪くなり(急性尿閉)、膀胱に尿が溜まりすぎることによる下腹部痛が生じます。この症状で来院され、膀胱鏡検査で発見されることが殆どです。

3. 診断について

「2. 症状について」で書かせていただいた自覚症状と身体検査所見(肋骨脊柱角叩打痛など)、検尿などを合わせ、尿路結石症を疑う場合には画像検査を行います。
画像検査は一般に超音波検査・レントゲン検査・CT検査を用います。患者さんのご負担の少ない超音波検査・レントゲン検査をまずは施行するのが一般的でした。しかし、大きさが小さい場合や結石成分によってはレントゲンでは見えない、腸管や尿管の近くを走っている血管の加減で超音波で確認できないことがあります。そのため初回来院時にCTを撮影させて頂き、結石の位置や大きさ・尿路閉塞の有無などを可能な限り正確に把握しその後の治療方針の決定の一助とさせて頂くことが多くなっています。尿道結石、膀胱結石については合わせて膀胱鏡検査や尿流量検査などを行い、現状の把握や手術必要性についての判断材料とさせていただきます。

4. 治療について

結石の存在部位によって、治療方針が異なります。「3. 診断について」で紹介しました一連の検査を行った上で、担当医と一緒に治療を選択していただくことになります。ここで紹介するお話は原則であり、患者さん個々の病態とご希望を考慮して、その都度担当医が判断いたします。

1)腎結石

①10mm未満でレントゲンに映らない

②腎盂に尿が貯留(水腎症)していない、疼痛がない、感染がない

③急激に増大していない

の3つを満たせば、原則経過観察可能です。満たさない場合は手術の対象となります。
経過観察は半年ごとの画像評価を行い、病状評価を行うことが望ましいとされます。

2)尿管結石は

①10mm未満の大きさ

②長期にその位置に留まっている可能性が低い

③発熱など緊急性のある状態ではない

④単腎、感染に対し非常に弱い状態などの結石による合併症が問題となる疾患などがない

の4つを満たす場合には、原則保存的に治療していきます。満たさない場合は手術の対象となります。

保存的な治療は

A.十分な飲水(1日2000mL以上)

B.鎮痛剤による痛みの管理

の2つが主であり、自然排石を促していくこととなります。これに合わせて結石の排出を促進する可能性のある薬剤を併用することがあります。
ある種の成分の結石(尿酸結石・シスチン結石など)に対しては内服による結石溶解治療が行われますが、その対象となる成分であることは前述の通り稀です。保存的な治療を行っても1ヶ月以上自然に排石されない場合には、手術での治療をおすすめすることが多いです。

3)膀胱結石・尿道結石

原則手術による治療が第1選択となります。

4)再発の予防について

日常の生活や食事の改善が主となります。十分な水分摂取、食事の改善で再発率を下げることができるとの報告もあります。改善等行われなければ5年以内に50%程度の方が、10年以内に80%程度の方が再発されますので、食事・生活面での注意は治療後も必要です。
具体的には、

  • 1日2000mL以上の飲水を心がける
  • 食べすぎない
  • 夕食から4時間以上空けてから就寝するようにする

などが有用と言われています。
基礎疾患が背景となっている結石形成に関しては、原因疾患の担当科と連携し適切な治療を行っていきます。

5. 手術について

1)体外衝撃波結石破砕術(ESWL)

体外から衝撃波を結石に焦点を絞って当て、結石を細かくする治療です。細かくなった破砕片は尿とともに排出されることになります。10mm未満の比較的小さな結石が良い治療対象です。麻酔不要で外来で施行できます。ただしレントゲンで確認可能な結石でなければ、焦点を絞ることができないので施行できません。また、結石が固いなど様々な状況から衝撃波の効果が十分に得られない場合もあり、治療が複数回必要となることもあります。治療時間は1時間程度です。

2)経尿道的腎・尿管結石破砕術(TUL)

外尿道から尿の流路と反対向きに細いカメラを挿入し、直接結石を観察しながらレーザーなどで結石を破砕し、鉗子を用いて結石を取り出してくる手術です。尿路を通り道にしますので、この治療自体で体に傷がつくことはありません。直接観察しながら破砕し回収を行いますので、レントゲンに映るかどうかは関係なく施行でき、確実性が高くなります。あまりに大きな結石でなければ、腎盂内の結石に対しても治療を行うことができます。カメラの性能向上など技術的な面から安全性も高まっており、現在日本で最も行われている結石に対する治療です。麻酔をかけることになりますので、入院(標準的には3~4泊程度)が必要になります。

3)経皮的腎砕石術(PNL)

背中から腎臓にトンネルを作成し、そのトンネル内に内視鏡を挿入し結石を破砕する治療です。トンネルの径を大きくできるので、回収できる砕石片がTULに比べて大きく効率がいいため、かなり大きな腎結石に対しても治療が行なえます。トンネル作成に際し、背中に傷が出来ます。ただし腎臓に大きな穴を開けることになるので、出血が多くなる可能性があります。手術の安全性を高めるため、より細い径のトンネルで治療を行うようにしたり、TULとPNLを同時並行で行うなど様々な工夫を行っています。出血の危険があるので、手術後しばらくの経過観察が必要ですので、TULに比べ1回の入院期間は長くなる傾向にあります。

4)経尿道的膀胱・尿道結石破砕術

下部尿路の結石治療の第1選択になります。外尿道口からカメラを挿入し、膀胱・尿道の結石を確認します。直接観察しながらレーザーなどで破砕を行い、破砕片を回収します。麻酔をかけることになりますので、入院(標準的には3~4泊程度)が必要になります。

女性泌尿器科疾患Female urological disease

女性泌尿器科疾患について

当科では毎週木曜日午後に女性外来を行なっています。
皆さんはこのような症状はありませんか?

  • トイレに行きたくなったら我慢ができない
  • トイレのドアノブを触った瞬間に失禁してしまう
  • 咳やくしゃみで失禁してしまう
  • 運動すると失禁してしまうので運動できない
  • おしっこがでにくい、残尿感がある
  • 股の間に何か挟まっているような気がする、触る気がする

これらは全て女性外来を受診される患者さんからの訴えです。 女性のこれらの悩みは複雑に絡み合っていて、「この症状だからこの疾患」ということはなく、同じ病気でも患者さんによって症状が違うこともよくあります。

私たちの女性外来では完全約制をとっています。初診の患者さんには困っていることについてしっかりお話を聞かせていただいた後に、膀胱鏡や内診、尿流量検査、エコー検査をさせていただき、症状の原因を検索いたします。疾患によって治療法も異なり、また同じ疾患でも複数の治療法がある場合もあります。内服、手術、リングペッサリーなどの外来処置、患者さんとご相談させていただき、患者さんそれぞれの疾患、生活スタイルにあった治療をさせていただきます。

疾患は患者さんそれぞれですが、多くの方が「もっと早く治療を受ければよかったわ」と言っていただいております。
癌などの悪性疾患と違い、直接的には命に関係のない疾患が多いため、ご家族やお仕事などを優先され、どうしても自分の悩み事は後回しになっている女性が多いです。しかし、女性の平均寿命は87歳を超えており、今後の生活をより良いものにするためにもぜひ、一度、恥ずかしがらずに女性外来へお越しください。

小児泌尿器科疾患Pediatric urology disease

小児泌尿器科疾患

[ 小児の泌尿器科疾患 ]

当院では小児の泌尿器科疾患も扱っています。小児の泌尿器科疾患はほとんどが成長の過程で自然と良くなりますが、中には生活に支障をきたすため治療を要するものもあります。具体的な疾患として包茎、夜尿症(おねしょ)、排尿機能発達・尿失禁症、尿道下裂、停留精巣、陰嚢水腫・精索水腫、精索静脈瘤、急性陰嚢症、膀胱尿管逆流症、二分脊椎・神経因性膀胱などがあります。

[ 症状 ]

個々の疾患によって症状は異なりますが、例えば以下のような症状がある際は小児の泌尿器科疾患の可能性があります。
包皮亀頭炎:包皮が赤く腫れている。
包茎:おしっこが飛び散るように出る。まっすぐ出すことができない。
夜尿症:5歳を過ぎてもおねしょをしている。
尿道下裂:おしっこが陰茎の先端からではなく、途中から出ている。陰茎が曲がっている。
停留精巣:精巣が陰嚢の中にない。
陰嚢水腫:陰嚢が腫れている。陰嚢に光を当てると透けて見える。
急性陰嚢症:精巣・陰嚢の辺りの突然の激しい痛み。
膀胱尿管逆流症:繰り返される尿路感染による発熱。

[ 検査 ]

個々の疾患により検査は様々ではありますが、代表的な検査をご紹介します。基本的に外来を受診していただいた際には検尿や超音波検査を行っています。その後、必要に応じて排尿時膀胱尿道造影(VCUG)や腎シンチグラフィ、レントゲン、CT、MRI検査などを追加します。小児の場合、成人とは違い診察・検査において侵襲の具合や精神的な影響が大きくなるので、その点に配慮した診療を行っています。また、時には小児科医師と協力しながら検査・診断を行うこともあります。

排尿時膀胱尿道造影(VCUG):尿道から膀胱内に細い管を入れ、膀胱内に造影剤を貯めていきレントゲン撮影を行います。この検査では膀胱尿管逆流症の有無、膀胱・尿道の形態的異常、排尿状態の確認を行うことができます。
腎シンチグラフィ:腎臓に取り込まれる薬剤を注射し、腎臓の機能をみる検査です。使用する薬剤には微量の放射線を出す物質が含まれており、これを映し出すカメラで撮影することで評価を行います。放射線の量はごく微量であり、胸のレントゲン写真を1回撮影する場合の10分の1以下の被ばく量となります。

[ 治療 ]

小児の泌尿器科疾患には良性なものも多く、経過を見ていく中で軽快するものなのか治療が必要なものなのか見極める必要があります。その上で、治療が必要なものに対して治療を行います。
包茎:手術にて余った包皮を切除することで治療します。
夜尿症・尿失禁:生活指導や場合によっては薬剤による治療を行います。
尿道下裂:手術にて、曲がった陰茎をまっすぐにし、尿の出口を亀頭の先端部になるように形成します。
停留精巣:手術にて精巣を陰嚢の位置に固定します。
陰嚢水腫:成長とともに改善することが多いですが、改善しない場合は手術を行います。
急性陰嚢症:精巣を栄養する血管が捻じれていたりすることがあり、その際には緊急で手術し、捻じれを解除する必要があります。
膀胱尿管逆流症:手術にて膀胱と尿管をつなぎなおし、逆流が起きないような治療や、尿道から内視鏡を入れて尿管の出口に薬剤を注入する治療を行います。

[ 小児泌尿器科診療のご案内 ]

当科では第1、2、4の金曜午後に小児外来を設けております。
手術業績に関しては手術業績のページをご参照いただけますと幸いです。

腎移植Kidney transplant

腎移植とは

[ 腎不全・腎代替療法 ]

何らかの原因で腎臓の機能が低下し、身体の中に蓄積した老廃物を腎臓の代わりに浄化させる手立てを考えなくてはいけない状況が末期腎不全といわれる状態です。この腎臓の代わり-腎代替療法には「透析療法」(腹膜透析、血液透析)と「腎移植」の2種類があり腎移植は末期腎不全の唯一の根治療法です。
腎臓移植では他の腎代替療法に比較して様々なメリットがあります。特に食事制限の緩和や一週間に数回行わなくてはいけない透析治療からの解放、また透析を続けることで発生する合併症も心配する必要がなくなります。女性の場合は出産におけるリスクが大幅に軽減されるため、安全に出産が可能になります。少量の免疫抑制の内服以外、健康な方と同様な生活を送ることができます。デメリットとしては移植した腎臓に対する拒絶反応を抑えるために生涯にわたって免疫抑制剤といった薬を規則正しく飲み続けなくてはいけません。免疫機能が抑制されるため感染症や悪性腫瘍の罹患リスクも上昇します。移植した腎臓の働きが永久的に続くのが理想的ですが、拒絶反応や高血圧、糖尿病などの原因により移植腎の機能低下を来し再び透析が必要となることもあります。

[ 生体腎移植・献腎移植 ]

腎移植には提供される腎臓がご家族や親族からの移植となる「生体腎移植」と亡くなられた方から提供していただく「献腎移植」があります。日本では腎臓移植症例の8割が生体腎移植ですが、米国では献腎移植が7割を占めています。諸外国のなかでも日本における生体腎移植の割合が多い理由は様々ですが、亡くなった御本人の臓器提供に関する意思表示のとらえ方、背景にある社会的な基盤や文化、宗教観などが複雑に絡み合っている結果であると思われます。2017年時点での献腎移植希望登録数12,449名に対し献腎移植症例は198例となっており登録者数に対して約1%弱となっている現状です。日本臓器移植ネットワークによると2017年に献腎移植を受けた方の平均待機期間は16歳未満で3.2年、16歳以上で13.9年でした。これは2001年のレシピエント選択基準の法改正により16歳未満の小児が選択される可能性が高いことを示しています。

[ 移植腎生着率 ]

日本移植学会から出されているファクトブックによれば、腎移植は移植手術の向上、免疫抑制剤の開発により年代ごとに移植腎生着率の成績は改善されています。生体腎移植、献腎移植のいずれにおいても、生着率は年代とともに上昇しており、生体腎移植では2010~2016年で99.2%、97.1%。献腎においても2010~2016年で98.0%、93.1%と高い生着率を認めています。

[ 当院での腎移植 ]

当院では福井大学病院腎センターとして泌尿器科と腎臓内科の協力体制のもと1990年の生体腎移植第1例目を実施、同年に献腎(死体腎)移植1例目を実施以降、50例以上の腎移植術を行ってきており、福井県では唯一献腎移植を行っています。また、2018年の小児腎移植日本国内で7例目、北陸では1例目の小児間の献腎移植を成功させ現在も移植症例数は増加傾向にあります。また従来、拒絶反応で生着が難しかった血液型不適合腎移植や抗HLA抗体陽性腎移植も実施しています。

現在、福井大学での献腎(死体腎)移植を希望する場合は日本臓器移植ネットワークへの登録と同ネットワーク関連施設である福井大学腎センターへの受診が必要となっています。選定基準は血液型などを点数化して考慮されます。臓器移植法の改定で親族優先提供(生前意思表示のあるドナーから配偶者、子、父母へ)が可能となりました。ドナーとレシピエントを全身検査し、計画的な移植を行っています。術後の通院やドナーのフォローも生涯行っています。栄養管理士・ME技師・看護師・医師を含めた職種横断的カンファレンスを行い、血液透析・腹膜透析・アフェレシス・腎移植・保存機腎不全患者の管理について情報共有を図っています。

献腎移植に関係するデータ等(社)日本臓器移植ネットワークのホームページで御覧になれます。
ドナーカード(意思表示カード)に関するお問い合せは、福井県腎臓バンクまでお願いします。

福井県臓器移植推進財団(旧 福井県腎臓バンク)
住所:福井県吉田郡永平寺町松岡下合月23-3
福井大学附属病院内
電話:0776-61-3773
また、献腎情報は24時間対応の電話0120-22-0149までお寄せ下さい。